透明な光 1

射し込んだ光で居場所はなくなった。暗闇が僕にとっての光だった。埃の舞う部屋に現れた階段は、天国への階段か、ヴィア・ドロローサか。世界のどこかで、何かが終わる音。

 

乾いた喉に、唾を飲む音は感傷的な響き、不規則に反射した。それだけだった。

 

一息、瞬く間に虚無へ、空虚へ。明暗は溶け合う。積み重なって、折り重なって、いつしか境目は消える。そのとき、ひどく曖昧な存在は、どのように定義されていた。

 

今年の夏はひどく暑かった。

 

ゆっくりと、グロテスクに、アスファルトから立ち上る熱気は、景色を歪む。足音、動悸、蝉の声、信号機、世界は、どうしようもない現実の大合唱を奏でた。よく響く、ありふれた、どこにも存在しないような言葉で。

 

大きな、大きな水たまりが消えた。蒸発した、跡形もなく。梅雨は長かったが、一瞬だった。地面は黒々として、その存在を主張する。忘れてしまえば、それだけのこと。時間は何かを記憶することがあるのだろうか。

 

蜃気楼に、陽炎に、いつかの過去に。迷った先に、中身のない入れ物。「君」との記憶の残骸。俯瞰の三人称視点でも、時は流る。そこに色は写らずとも。

 

傾いた世界、西陽はその光線を衰えさせず、穿たれた僕と、昨日と、水たまり。きっかけはきっとなんでもよかった。

 

誰かの悲鳴が聞こえたから

生きることに絶望したから

空っぽの夜空に星が浮かぶから

「君」が僕を呼んだから